「二重」の相伝
「二重」は浄土宗の第二祖となった聖光上人(弁長)の作となる『末代念仏授手印(まつだいねんぶつじゅしゅいん)』により伝えられます。
聖光上人は今の北九州市出身で、のち比叡山で学びましたが、お寺の本尊の制作を仏師に依頼するために上洛した際、法然上人と邂逅されました。念仏の教え、そして仏道のあるべき姿に目覚められ、再度の上洛の際に法然上人より『選擇本願念佛集(せんちゃくほんがんねんぶつしゅう)』を授けられます。
これは全ての仏教の教えの中に浄土の教えを明確に位置づけ、自ら信ずる立場を明らかにされた元祖上人の主著であります。
その後故郷の鎮西(九州地方)各地にて布教を続けますが、元祖上人滅後時を隔て、遠く京の都にいた法然上人の弟子たちのあいだに様々な異説(念仏の教えに対する様々な見解)が生じていました。
幸西(こうさい)の一念義、証空(しょうくう)の弘願義(ぐがんぎ)、行空(ぎょうくう)の寂光土義(じゃっこうどぎ)の他、隆寛(りゅうかん)の多念義や長西(ちょうさい)の諸行本願義、親鸞(しんらん)の一向義など、互い主張を一歩も譲りません。
そのような中「今こそ、師の伝えて下さった正しい教えを明らかにして残しておかなければならない」と考え、熊本県白河の畔にあった往生院にて四十八日の別時念仏(特別な期間を設けて念仏を行う法会)を修する中で著したのがこの『末代念仏授手印』であります。
この書の構成は「六重・二十二件・五十五法数」として整理されています。
「六重」とは最も大切な事がらであり、①五種正行②助正二行③三心④五念門⑤四修⑥三種行儀の六種であります。そして「二十二件」とは「六重」の内容をさらに細かく解説したものであり、「五十五法数」とは「六重」の内容についてさらに詳しく教義的な要点を示し、その項目の合計数が五十五となったものです。
最後に、聖光上人はこれら「六重・二十二件・五十五法数」の全てが仏の本願に誓われた称名念仏の一行に帰することを明らかにし(結帰念仏一行三昧、けっきねんぶついちぎょうざんまい)、それが間違いことの証拠として両手の掌(たなごころ)で朱印を押されて後世に托されました。それ故に『末代念仏授手印』と名づけられています。
この書では、主として浄土宗における行の問題が整理されており
この「二重」では浄土宗の「法(行)」が相伝されます。
まず浄土宗の行(実践)は五種の正しい行い(五種正行、ごしゅしょうぎょう)にまとめられ、それらを浄土往生を目ざした行い(正行、しょうぎょう)とそれ以外の行い(雑行、ぞうぎょう)とに大別し、さらに正行の中でも口で称える称名念仏こそが、往生が確定する間違いのない最も大切な行い(正定業、しょうじょうごう)としました。その他の正行はお念仏を助ける行い(助業、じょごう)と位置づけられます。
またさらに浄土願生者の心構え、心を落ち着ける拠り所としての安心(あんじん)を説き、これを三種の心(三心、さんじん)として説明されました。
㈠ 至誠心(しじょうしん、偽りなきまことの心)
㈡ 深心(じんしん、深く信ずる心)
㈢ 廻向発願心(えこうほつがんしん、全てを往生に向ける心)
そして信仰者の日常生活のあり方、つまり念仏の実践の具体的方法として「四修(ししゅ)」を説いています。
㈠ 恭敬修(くぎょうしゅ、仏に対する敬いの心)
㈡ 無余修(むよしゅ、阿弥陀仏とその浄土に関わる行にひとすじに励むべきこと)
㈢ 無間修(むけんじゅ、他の行により念仏を中断せず、日々相続すべきこと)
㈣ 長時修(じょうじしゅ、上記をこころがけ、臨終を迎えるまでこれを続けること)
また念仏を修する時節に応じて三種の行儀(ぎょうぎ)を説きました。
㈠ 尋常行儀(じんじょうぎょうぎ、平常時の念仏)
㈡ 別時行儀(べつじぎょうぎ、特定の時と場所を定めて行う念仏)
㈢ 臨終行儀(りんじゅうぎょうぎ、人生の最後を迎えた際の念仏)
中でも尋常行儀(平生の念仏)こそが一番大切であるとしています。
このように詳しく分類・説明された浄土宗の実践ですが、実は愚かなる私たちが「ただ助け給え」との心にて称える念仏の中に全て込められているとされています。
元祖上人が御遺訓『一枚起請文』にて曰く
「ただし三心(さんじん)四修(ししゅ)と申(もう)すことの候(そうろう)は、
皆決定(けつじょう)して南無阿弥陀佛にて往生するぞと思ううちにこもり候なり。」
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