和尚のひとりごとNo136
2018年月訓カレンダー9月 「あの人の恩 ありし日を思う」
『今昔物語』という古典文学のお話です。
父親思いの兄弟が居りました。ある時、父が亡くなり二人とも嘆き悲しみますが、その後出世した兄は仕事が忙しくなり、父のお墓参りが出来ない状態が続きました。
兄は早く悲しみを忘れようと父のお墓の傍に“忘れ草”を植えました。“忘れ草”とは、萱草(かんぞう)というユリ科の花で「見る人の思いを忘れさせてしまう」と言われている花です。
その花言葉は、「悲しみを忘れる」「憂いを忘れる」「物忘れ」です。
一方、弟の方は墓参りに行かなくなった兄を嘆かわしく思い、自分は絶対に父の事を忘れまいと“思い草”を父のお墓の傍に植えました。
“思い草”とは紫苑(しおん)というキク科の植物で秋に花を咲かせます。紫苑は、「見る人の心にあるものを決して忘れさせない」と言われており、その花言葉は「君を忘れない」「遠方にある人を思う」「追悼」です。
花言葉通り花のおまじないが利いて、兄は父を忘れ、弟はずっと父を忘れず墓参りを続けました。その結果、毎日お墓に参る弟の行いに感心したお墓の“守り鬼”が父親思いの弟に予知能力を授け、弟は日々平穏無事に過ごす事が出来たそうです。
これは平安時代の末に書かれたお話ですが、古の人々のお墓参りに対する思い、お墓参りを重んじておられた様子を窺い(うかがい)知る事が出来ます。お墓は、故人を偲び、お祀りする場所であります。又、「心のよりどころ」になる大切な場所でもあります。
胸の内 聞いてもらいに 墓参り
日々の思いや自分の気持ちを、墓前で亡くなった方々に聞いてもらうと心穏やかになるものです。
亡き人を身近に感じ、想いを寄せる事の出来る場所がお墓でありましょう。又、お墓参りをする事で自身の信仰を深めさせていただけるものです。
信仰を深め、亡き人やご先祖様に想いを寄せて、故人様への御恩を知り感謝していただきますと、今居る自分自身の有難さに気付かされます。有難さに気づけば、日々の生き方、人生そのものが変わってまいります。
供養(くよう)は「供物養心(くもつようしん)」と言って、亡き人や仏様に手を合わせ、物を供える事によって、己の心を養わさせていただけるという意味が御座います。今居る自分の命の有難さに気付くからです。
心が変われば態度が変わる 態度が変われば行動が変わる 行動が変われば習慣が変わる 習慣が変われば人格が変わる 人格が変われば運命が変わる 運命が変われば人生が変わる。
“墓じまい”が増えてきたという事を耳にいたしますが、お墓は今居る自分は亡き人、ご先祖様のお陰様と気付かされる大事な場所であります。負担のない程度にお墓参りもしっかり勤めて参りましょう。きっと皆様の生き方が変わってまいります。
「守り鬼」お墓を守る隠れた存在のこと 穏(オン)がなまってオニ(鬼)になったといわれています。
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