和尚のひとりごとNo1117「浄土宗月訓カレンダー10月の言葉」

和尚のひとりごとNo1117「一声一声に想いを託して」

 浄土宗では「同唱十念(どうしょうじゅうねん)」と言って皆で一緒に十遍のお念仏をお唱えいたします。十回「南無阿弥陀佛」と申していただくお念仏を勧めるのは、『無量寿経(むりょうじゅきょう)』に説かれている「乃至十念(ないしじゅうねん)」という言葉に依ります。「乃至十念」とは、「わずか十回だけでもお念仏をお唱えしたら」という意味です。法然上人は、「十声(とこえ)一声(ひとこえ)に至るまで」と解釈され、たとえ一回だけ唱える「南無阿弥陀佛」であっても阿弥陀様はその声を聞いてくださると説かれました。
 十遍のお念仏を一息でお唱え出来ればいいのですが、慣れていないとなかなか息が続きません。そこで、「ナムアミダブ、ナムアミダブ、ナムアミダブ、ナムアミダブ」と四遍目で息継ぎをして、その後「ナムアミダブ、ナムアミダブ、ナムアミダブ、ナムアミダブ」と八遍目で、もう一度息継ぎをし、九遍目だけは「ナムアミダブツ」と「ツ」を付けて十遍目は「ナームアミダブゥ」とお唱えする仕方を浄土宗の十念の唱え方として定めています。古来からその様なお唱えの仕方が決められていたわけではありません。近年になってお唱えする方々の足並みを揃える為に定められたようです。ですから地方に行けばその土地伝承の十念の唱え方も伝わっているようです。山口県、周防大島という所では少し違った十念が現在でも継承されています。その唱え方は、一遍目、二遍目、三遍目は「ツ」を付けて四遍目は付けず。五遍目、六遍目、七遍目も「ツ」を付けて八遍目は付けず、九遍目は「ツ」を付けて、十遍目は「ナームアミダブゥ」とお唱えするそうです。九遍目だけ「ツ」をつける唱え方より少し丁寧な感じがいたします。「ツ」を付ける回数が多いとあまり早くお唱えする事が出来ません。恐らくゆっくりと唱え、しっかりと佛様を拝む為にその様なお唱えの仕方が伝えられたのかもしれません。
 或るお婆ちゃんは十遍のお念仏全てに「ツ」を付け、唱える回数も十回では終えず、ただひたすら「ナムアミダブツ、ナムアミダブツ…。」と丁寧に唱えられます。このお婆ちゃんは、「ツ」を付けてゆっくり唱える事によって、「亡くなったご主人さんの事を思い出す。」と仰っておられました。
   唱うれば 姿が声にあらわれて 阿弥陀と申す 佛なりけり(徳本上人)
 ゆっくり丁寧にお唱えし亡き人に想いを寄せていただき、また一声一声にお浄土への想いを託していただいて共々にお念仏をお唱えして過ごして参りましょう。