和尚のひとりごとNo1084「法然上人一代記 14」

14.嘆き経蔵に入る
「諸宗の教えに触れ、諸宗の学匠たちが口をそろえてその学識を認め、褒(ほ)めたたえた。それにもかかわらず迷いの世界からの出離解脱(しゅっりげだつ)について思いわずらい身も心も安らかではない」
この時の法然上人の消息を伝える一文です。
仏教の典籍は経(仏の言葉)・律(僧の守るべき規律)・論(教えについての論理的解釈)の三蔵に分類されます。これを一切経とも呼び、再び黒谷青龍寺(くろだにせいりゅうじ)に籠った法然上人はこの膨大な一切経を五回にわたって読破されました。ただ一心に生死を解脱する道、それも実現可能な法門を見いだしたいが為でありました。
源信僧都(げんしんそうず)の『往生要集(おうじょうようしゅう)』に導かれ、すでに聖道門(しょうどうもん)を捨てて浄土門(じょうどもん)に帰していた法然上人、涙ながらに勉学を続ける中である書物に出会いました。中国の善導大師(ぜんどうだいし)が著された『観経疏(かんぎょうしょ)』であります。