和尚のひとりごと№2006「浄土宗月訓カレンダー4月の言葉」
和尚のひとりごと№2006「呼ぶ喜び 呼ばれる嬉しさ」
名前を呼ぶ事について四つの尊さがあります。
一つ目は、名前を呼ぶと多くの人の中から一人だけを選び出す事が出来ます。同姓同名の方が居られても、その人を特定する事は可能です。ですから「何々さん」と呼べばその人を選び見つける事が出来るのです。
二つ目は、名前を呼ぶとその人のお顔やお姿が浮かんできます。「お父さん」と呼べば、お父さんのお顔やお姿が、「お母さん」と呼べばお母さんのお顔やお姿が目に浮かびます。その様に名前にはその人自身の姿形が伴います。
三つ目は、名前を呼ぶと返事が返ってきます。「何々さん」と呼べば「はい」と答えてくれるのです。
四つ目は、名前を呼ぶとこちらの気持ちをその名前に託す事が出来ます。
南極地域での気象や大気、地質、生物、海洋等を調査する南極地域観測隊があります。観測隊のうち一年間に渡り観測し続ける隊員を越冬隊と言います。第三次南極観測越冬隊(1958年11月〜1960年3月)で、昭和基地に新婚早々の隊員が参加されました。新妻を日本に残して越冬隊に参加されたのです。参加すると一年間は帰国出来ません。当時の連絡手段は、電報を打つ事しか出来ませんでした。また頻繁に連絡する事も出来ません。この隊員は新妻から電報の届くのが待ち遠しく思いながら、仕事に精を出していました。ようやく電報が届く日がきました。その電報には、「あなた」とたった三文字だけが書いてあったそうです。他の隊員は呆れて笑いました。本人も苦笑いで、「あなた」「あなた」と書かれた電報を二度三度と読み返しました。しかし口に出して読むと涙がポロポロと流れてきたと言います。電報は字数に制限があります。遠く離れた旦那さんに色々話したい事があったでしょう。「あなた、お元気ですか。私は元気にしております。ご心配なさらなくてもご両親は元気にしております。あなた、どうぞお体に気をつけてください。無理をしないでくださいね。一日も早く無事に帰ってきてくださる事を願っています。あなた、愛していますよ。あなた、あなた…」と、色々書きたい事が次から次へと出てきたと思います。しかし、限られた文字数では収まらないので、自分の全ての思いを「あなた」の三文字に込めて電報を打ったのです。「あなた」という三文字から、この夫は妻の思いを汲み取り、涙を流したのです。他の隊員も同様に胸を打たれたと言います。この話は世界一短いお手紙として有名になりました。
阿弥陀様は、「南無阿弥陀佛と我が名を呼べば必ず救う」とお誓いくださいました。南無阿弥陀佛の六字の名号に阿弥陀様は全ての人々を救う思いを込められたのです。多くの仏様の中からただ阿弥陀様だけを選び、私たちが名を呼べば阿弥陀様がそれに応じてお迎えに来られるのです。共々に阿弥陀様に思いを寄せて御念仏を申して過ごして参りましょう。