和尚のひとりごとNo1108「法然上人一代記 37」
37.一日聖経を見ず
吉水の草庵に住した法然上人は、時折白河(しらかわ)禅房(ぜんぼう)へ出向きました。のちの金戒(こんかい)光明寺(こうみょうじ)となったこの地は吉水と同じく東山の黒谷にありました。
かつて洛東の真如堂に参詣したおり、上人に眼には奇(き)瑞(ずい)を示す紫雲たなびくのが見え、光明輝く瑞相(ずいそう)が現われたというご縁から、この地にも草庵を結んだのでした。
京の都でも閑静なるこの地にも戦の世の暗雲が垂れこみます。鎌倉で天下をとった源頼朝の従弟にあたる木曾(きそ)義仲(よしなか)が都に攻め込んできたのです。木曽の冠者(かんじゃ)として知られた坂東の荒武者は京の都の平穏を再び破りました。
木曾義仲が敵対した後白河法皇の御所も炎上する中、落ち着いて経を紐解くこともままならず、門弟の勧めもあり山科へ逃れることになります。