和尚のひとりごと№1723「浄土宗月訓カレンダー6月の言葉」
和尚のひとりごと№1723「心の中も衣替え」
仏教徒のシンボルとも言うべき衣装に袈裟(けさ)があります。インドの古い言葉、サンスクリット語のカーシャーヤを音訳したもので、「色彩が無い」という意味です。古代インドの出家修行者は財産になる様な所有物を持つ事を禁じられていました。ですから身に着ける衣服は使い捨てられたボロ布や、死者の衣服、汚物を拭う布までをも拾い集め身に纏(まと)っていたのです。綴(つづ)り合わせた布を草木の汁や泥土で色を染み込ませたので色彩の無い、壊色(えじき)を意味するカーシャーヤと呼ばれました。時代を経て日本に伝わり、今では色々な形の袈裟がありますが全て仏様の御衣と頂戴いたします。袈裟の事を、煩悩を断ち切った者、苦しみから解放され精神的な自由を得た解脱(げだつ)した者が纏(まと)う衣という事で、解脱(げだつ)の服、「解脱服(げだっぷく)」とも言います。袈裟を纏(まと)えば過去の悪行や、貪り、怒り、愚かさなどの報いから離れ出る事が出来ると言われています。又、袈裟を広げると、繋ぎ目が田んぼの形になっています。大きさは大小様々ありますが、縦横に線があり、田んぼが並んだ様な形に見えます。そこから「福田衣(ふくでんね)」とも言います。その袈裟を戴く時、或いはお授けいただく時に称えるお経、偈文(げもん)があります。
大哉解脱服(だいさいげだっぷく) 無相福田衣(むそうふくでんね)
被奉如戒行(ひぶにょかいぎょう) 広度諸衆生(こうどしょしゅじょう)
「大いなるかな、解脱へと向かわしめる服よ」
「姿、形を離れた悟りという実りをもたらす福田にも喩えられる衣よ」
「これを慎んで被着し奉り、如法に持戒と修行に励み」
「広く衆生を悟りへと導かん」という意味です。
六月は田植えの時期です。丹精込めて育て上げれば、秋には立派な稲が実ります。それと同じ様に袈裟を纏う者には福の実が備わっていくと頂戴します。お念仏の種を蒔いて往生の実を結ぶとお受け取りいただいて、「福田衣」と頂戴していただけたらと思います。そして「被奉如戒行、広度諸衆生」この袈裟を着けさせていただく事によって戒行を修め、如法に仏の御教えに従い、広く諸々の衆生と共に悟りへと向かおうと誓うのです。自分一人だけの幸せを願うのではありません。願わくは生きとし生ける者全てが救われていきます様に、共にその道を歩ませていただく事が大事なのです。