和尚のひとりごと№1196「聖光上人御法語後遍三」
和尚のひとりごと№1196「聖光上人御法語後遍三」
別時(べつじ)の念仏と申すは、新しく道場を荘厳(しょうごん)し、ふるくあらば洗い浄め、さて目出度(めでた)く荘(かざれ)れ、もしは香花(こうげ)をまいらせて貴(たっと)くもてなしてまいらせよ。 さて我が身は湯水(ゆみず)を浴(あ)みて新しき物を着(ちゃく)し、古からんをば洗い清めて道場に入りて、もしは一日二日三日四日(しにち)五日六日七日(しちにち)が間、かきこもりて申すべし。
さて志し思わん事は構(かま)えて験(しる)し一つ行い出(いだ)さんと思うべし。験(しる)しと申すは、もしは仏を見まいらせんと、もしは異香光明(いこうこうみょう)かようの目出(めで)たからん験し一つ見ばや聞かばやと、おもうべし。もし左様(さよう)の不思議(ふしぎ)を行い出(いだ)したらんには、荒量(こうりょう)の人の聞くに語るべからず。もしは注(ちゅう)しおくべし。もしは貴からん人には語るべし。それとも口しどけなからん人には語るべからず。同じく念仏申して極楽に生まれんと志(こころざし)あらん人には語るべし。 同じ流れならぬ人はかかる目出度き事をも悪様(あしざま)に申し成し候なり。
志を至(いた)して申すこそ実(もこと)しく、是れを別時念仏と申し候。
訳
別時行儀
別時(べつじ)の念仏というのは、改めて道場を荘厳して、古びているようであれば洗い浄め、さもきらびやかに飾り整えよ、香・華をもって本尊をあがめ奉れ。そしてわが身は湯水を浴した上で新しい着物を着し、古ければそれを洗い浄めて道場に入り、一日(いちにち)、二日(ににち)、三日(さんにち)、四日(しにち)、五日(ごにち)、六日(ろくにち)、七日(しちにち)と期間を設けて道場に籠(こも)って称えよ。
さてその際に志して思うこととして、霊験(れいげん)をひとつでも出現させてやろうと思え。その験(しるし)というのは、例えるならば仏を見奉る、あるいは不可思議なる香りや光明、このような霊験をひとつでも見よう、耳にしようと思うことである。
もしこのような不可思議なる現象を出現させたとしても、念仏実践粗(あら)き人が尋ねるようなことがあっても決して口外するな。また容易く言いふらすような人には語ってはならぬ。ただし同じく念仏を称えて極楽へ生まれようとの志ある人には語るようにせよ。同じ心を持たぬ人はこのような得難い体験についても悪しざまに言うことがある。
志を尽くして称えることに真実があり、これを別時の念仏というのである。